
次世代ペプチド設計のガイドライン
Table of Contents
1.ペプチドとは:生命の設計図を繋ぐ「第3の創薬」
ペプチドの定義:タンパク質との「境界線」
ペプチドとは、2個以上のアミノ酸が「ペプチド結合(アミド結合)」によって数珠つなぎになった化合物の総称です。
結合するアミノ酸の数(残基数)が増えるにつれて「タンパク質」と呼ばれますが、その境界線は厳密には定義されていません。一般的には分子量 10,000 以下、あるいはアミノ酸残基数 100以下のものが「ペプチド」と分類されるケースが多く見られます。
生命活動を支える「中分子」の役割
ペプチドは、低分子(小さな分子)とタンパク質(大きな分子)の中間に位置する「中分子」として、生命活動において極めて重要な役割を担っています。
私たちの体内では、特定の生体反応を制御する「生理活性物質」として機能しており、代表的な例として以下のものが挙げられます。
- インスリン: 血糖値を下げる働きを持つ。
- グルカゴン: 血糖値を上げる働きを持つ。
このように、ペプチドは体内の情報を伝達し、恒常性を維持するための「メッセンジャー」として不可欠な存在です。

なぜ今、ペプチドが注目されているのか?
近年、創薬や材料開発の分野で「第3のモダリティ(創薬手段)」としてペプチドが注目を浴びている理由は、低分子とタンパク質の両方の長所を兼ね備えている点にあります。
① 低分子医薬品との違い:高い選択性と低副作用
低分子は体内に吸収されやすい反面、標的以外にも結合しやすく副作用のリスクがあります。一方、ペプチドは「鍵と鍵穴」のように特定の標的(受容体など)に対して極めて高い精度で結合するため、少量でも高い効果を発揮し、副作用を抑えやすいという特長があります。

② タンパク質(抗体医薬)との違い:合成の容易さと安定性
タンパク質や抗体は分子が大きく構造が複雑なため、製造コストが高く、細胞内への導入も困難です。ペプチドは分子が小さく、化学合成の手法が確立されているため、以下のメリットを享受できます。
- 高品質・短期間・低コストでの合成が可能。
- 構造がシンプルなため、細胞内へのアプローチやデリバリー(送達)の制御が設計しやすい。
広がる応用可能性:医療から農業、電子機器まで
ペプチドの可能性は、バイオ医薬品の枠を超えて急速に拡大しています。
- ライフケア: 高機能なエイジングケア化粧品、ペット用スキンケア、機能性食品。
- 産業・先端技術: 特定の物質のみを吸着するフィルター、農業用バイオスティミュラント(植物免疫活性)、さらには次世代の電気・電子機器材料。
弊社は、この無限の可能性を秘めたペプチドを「計算科学」の力で最適にデザインし、社会実装することを目指しています。
2.人工ペプチド設計とは:計算科学が「発見」を「創造」に変える
「探す」から「創る」へのパラダイムシフト
従来のペプチド開発は、自然界に存在する膨大なアミノ酸配列の中から、目的の機能を持つものを「探す(スクリーニング)」手法が主流でした。これは、広大な砂漠の中から一粒の黄金を見つけ出すような、膨大な時間と労力を要する作業です。
一方で、私たちの取り組む人工ペプチド設計は、コンピュータ上で目的の機能を持つ配列をゼロから「構築」する技術です。いわば、必要な部品を組み合わせて、精密な機械を設計・製造するモノづくりに近いアプローチです。
設計の2つのアプローチ:改良か、ゼロからの創造か
ペプチド設計は、その目的と深さに応じて大きく2つのカテゴリーに分けられます。
① リデザイン(再設計):既知の力を引き出す
すでに機能が分かっているペプチドのアミノ酸を数個だけ置き換え、機能の向上や性質の安定化を図る手法です。「既存のテンプレートの微調整」であり、特定の標的への結合力をさらに高めたい場合などに有効です。
② de novo(デノボ)デザイン:ゼロからの創造
自然界に手本を求めず、目的の機能を発現させるためにアミノ酸配列をゼロから組み立てる手法です。
- 構造の設計: αヘリックス(螺旋状)やβシート(平面状)といった二次構造、さらにそれらが組み合わさった会合・凝集などの四次構造を精密にコントロールします。
- 性質の最適化: 親水性・疎水性のバランス、電荷(正・負)の配置、芳香環の有無、さらには電子配置までを考慮し、標的に対して「最も美しく、効率的に」作用する分子を設計します。

設計手法の進化:経験とシミュレーションの融合
これらを実現するための手法も、テクノロジーの進化とともに進化を続けています。
合理的設計(Rational Design)
これまでの研究データや膨大な経験則に基づき、論理的に配列を決定していく手法です。「このターゲットには、この極性を持つアミノ酸が効くはずだ」という科学的な仮説に基づいて設計を行います。
コンピュータ設計(Computational Design)
最先端のAIやシミュレーション技術を用いて、分子の構造やダイナミックな動きを予測する手法です。
- 構造予測: ColabFold(※1)などのAIツールを用い、設計した配列が意図した通りの立体構造をとるかを検証します。
- 動態シミュレーション: OpenMM(※2)などを用い、生体に近い環境で分子がどのように振る舞うかを計算機上で再現します。
弊社は、これらすべての手法を自在に組み合わせることで、従来の手法では到達できなかった「高機能・高付加価値な人工ペプチド」の創出を可能にしています。
※1:最先端のAIによるタンパク質構造予測ツール。2024年ノーベル化学賞を受賞した「AlphaFold」のアルゴリズムをベースに、高速かつ高精度な解析を可能にしたクラウドベースのツールです。 (Mirdita M, et al. Nature Methods, 2022)
※2:分子の動きを原子レベルで物理的にシミュレーション(分子動力学計算)するための高パフォーマンス・ツールキット。設計したペプチドが標的タンパク質に対してどのように振る舞うかを詳細に解析するために使用します。
3.弊社の強み:シミュレーション×実装の融合
アカデミアの知見と最先端ITの掛け合わせ
弊社の人工ペプチド設計技術は、代表の飯田禎弘が神戸大学において長年積み重ねてきた研究経験と科学的知見をベースに、最先端のAI・IT技術を高度に融合させた独自のプラットフォームです。
単なるツールの活用に留まらず、基礎研究に裏打ちされた「深い科学的洞察」をデジタル技術で加速させることで、次世代のペプチド創製を実現しています。
柔軟な設計戦略:リデザインからde novoまで
私たちは、標的の性質やプロジェクトの目的に合わせ、2つの手法を自在に使い分けます。
- リデザインとde novoデザインの最適化: 既存配列の改良による確実な機能向上と、全く新しい構造による非連続なイノベーションの両方に対応。
- ハイブリッド手法: 合理的設計(論理的推論)とコンピュータ設計(高精度シミュレーション)を組み合わせることで、「世界にまだない機能」を迅速かつ高精度に創製します。
「社会実装」を逆算した多角的設計
弊社の設計は、単に「標的に結合する」だけでは終わりません。初期の設計段階から、以下の要素をパラメータとして組み込みます。
- 安全性・低毒性の追求: 生体への影響を予測し、リスクを最小化した配列を設計。
- 実装形態の最適化: 最終的な製品(化粧品原料、医薬品、産業資材など)として、どのような素材形態(粉末、液体、ゲルなど)が最適かを見据えた分子設計。 これにより、研究段階から製品化までのタイムラグを大幅に短縮します。
ドライ(計算)とウェット(実験)の真の融合
弊社の最大の特長は、「設計(ドライ)」だけで終わらせない点にあります。 設計したペプチドの機能性を実証するため、最短・最効率の適切な検証実験(ウェット)を自ら行い、その結果を設計フィードバックに即座に反映させます。
この「計算と実験の高速ループ」を回すことで、完全新規でありながらも、実用化の確度が高い機能性ペプチドの提供を可能にしています。

4.導入事例及び今後の展開:バイオの力で社会をアップデートする
弊社の人工ペプチド設計プラットフォームは、その汎用性の高さから、医療・ヘルスケア・産業資材など、多岐にわたる分野への応用が進んでいます。
現在進行中のプロジェクト(Pipeline)
現在、私たちは以下の領域において、独自のペプチド設計による社会実装への挑戦を続けています。
①花粉症へのアプローチ:免疫応答の精密制御
内容: 特定の免疫受容体に対して最適化された人工ペプチドにより、アレルギー反応の起点となる過剰な免疫応答を抑制することを目指しています。
②筋肉・骨格系の維持:成長因子の機能最適化
内容: 加齢や低活動に伴う筋力低下に対し、筋肉の代謝や成長に関わるシグナル伝達を調節する機能性ペプチドを設計。身体機能を維持・向上させる次世代のヘルスケア素材としての実装を進めています。
③細胞レベルのエイジングケア:代謝シグナルの活性化
内容: 組織の再生能力や新陳代謝を司る細胞内シグナルに着目。シミュレーションにより、細胞の活力を引き出す最適な構造を持った人工ペプチドを導き出し、アンチエイジング領域への応用を図っています。
未来への展望

私たちは「想像」した技術を、社会に「創造」することを目指しています。パートナー企業様と共に、新たな価値を市場に送り出すための共同開発・OEM提案を積極的に行っています。
詳しくはこちら
本記事でご紹介した技術や実績の詳細は、以下のページよりご覧いただけます。
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- [弊社の独自技術:人工ペプチド設計技術の詳細はこちら]
(※計算科学と実験の融合した設計プロセスについて詳しく解説しています) - [特許登録済みペプチドの機能と応用事例はこちら]
(※具体的な分子や、実証された機能データを掲載しています)
共同開発・パートナーシップのご案内
弊社では、人工ペプチドを活用した新製品開発や、特定課題の解決に向けた共同研究パートナーを募集しています。
「こんな機能を持つ分子は作れないか?」「既存素材をペプチドで代替したい」といったご相談がございましたら、まずはお気軽にお問い合わせください。
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免責事項
本ページに記載されている製品名およびツール名は、各開発元または各社の商標、あるいは登録商標です。